浦和地方裁判所 昭和37年(ワ)281号 判決 1963年9月02日
判 決
浦和市高砂町五丁目五八番地
原告
鈴木蓉子
右訴訟代理人弁護士
徳永昭三
東京都中央区日本橋室町二丁目四番地三和ビル六階三号室
被告
三光商事こと
李亨九
川口市大字芝一二七五番地
被告
藤倉助次郎
東京都千代田区神田司町二丁目一〇番地
被告
竹田晋吾
右訴訟代理人弁護士
岡田実五郎
同
佐々木
主文
原告の主位的請求および予備的請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は主位的請求として「一、原告と被告らとの間において別紙物件目録記載の各建物が原告の所有であることを確認する。二、被告藤倉は原告に対し、別紙物件目録記載(一)の建物につき昭和三七年六月二三日浦和地方法務局川口出張所受附第一三三六九号の所有権保存登記の抹消登記手続をなし且つ、右建物を明け渡し、昭和三七年六月二三日から右建物明渡し済に至るまで一ケ月二五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。三、被告竹田は原告に対し別紙物件目録記載(二)の建物について昭和三七年七月一二日浦和地方法務局川口出張所受付第一五二〇二号の所有権保存登記抹消登記手続をなし、且つ右建物を明渡し、昭和三七年七月一八日から右建物明渡し済に至るまで一ケ月金二五、〇〇〇円の割合による金員を支払え。」、予備的請求として「一、被告李は原告に対し金二、九三四、五〇〇円とこれに対する昭和三七年九月八日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。二被告藤倉は原告に対し別紙物件目録記載(一)の建物を収去して別紙物件目録記載(三)の土地を明渡し、昭和三七年六月二三日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金七二〇円の割合による金員を支払え。三、被告竹田は原告に対し別紙物件目録記載(二)の建物を収去して別紙物件目録記載(四)の土地を明渡し、昭和三七年七月一八日から右土地明渡済に至るまで一ケ月金七二〇円の割合による金員を支払え。」および「訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに金員支払および土地、建物の明渡の部分について仮執行の宣言を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。
(主位的請求の原因)
一、別紙物件目録記載(一)、(二)の各建物は自ら建築してその所有権を取得したもので、現に原告の所有である。
二、しかるに被告らは前記二棟の建物の原告の所有権を争い、且つ(一)の建物には請求の趣旨記載のとおり被告藤倉の名義に所有権保存登記がなされ、被告藤倉は昭和三七年六月二三日から右建物を権原なく占有して原告に対し相当家賃額たる一ケ月二五、〇〇〇円相当の損害を与え、(二)の建物には請求の趣旨記載のとおり被告竹田の名義に所有権保存登記がなされ、被告竹田は昭和三七年七月一七日から権原なく右建物を占有して原告に対し相当家賃額たる一ケ月二五、〇〇〇円相当の損害を与えている。
三、前記(一)、(二)の各建物が被告藤倉、同竹田の各名義に保存登記がなされるに至つた事情は次のとおりである。
即ち、原告はその所有の別紙目録記載(三)、(四)の土地上に分譲住宅を建設することを計画し、その建設資金を次の約定で被告李から借り受けた。
(一) 利息月五分
(二) 返済方法は建物売買代金から優先的に支払う。
(三) 建物の売買条件、価額は原告と被告李との協議で決定し、建物売買代金は原告の立合のもとに被告李が受領して右貸金の弁済に充てる。
(四) 右貸金の支払を確実にするため、名目上建物建築確認書の名義を被告李の妻清水照の名義とし、且つ建物敷地として(三)、(四)の土地を含む原告の所有土地六三〇坪に賃借権設定契約公正証書を作成する。
原告は右約定により被告李から前記(一)、(二)の建物建築の資金として昭和三七年三月三日から同年四月一八日までの間六回に亘り一、〇六五、五〇〇円を借入れ、右借入金と自己資金二〇万円とで五月初旬頃前記(一)、(二)の建物を完成したので売買条件等を協議するよう被告李に求めたが、同被告は右各建物は自己の所有であると主張して、原告が物色した買手を同道して同被告を訪れても原告の契約する売買は認めないといい、自らその配下の者とともに右各建物を占拠してしまつた。
原告は同年五月二七日右借金の弁済のため現金一一〇万円を持参し、被告李に提供して建築確認書の名義を原告名義に変更するよう求めたが同人はこれに応じないで前記のとおり(一)の建物を被告藤倉の名義、(二)の建物を被告竹田の名義に各所有権保存登記をしたうえ、同被告らが右建物を占有するに至つた。
四、以上の次第であるから、被告らに対し、前記(一)、(二)の各建物に対する原告の所有権の確認を求め、且つ、右各建物の被告藤倉、同竹田の前記各所有権保存登記はその実体にそわないものであるし、同被告らの右各建物の占有は権原に基かないもので原告に対抗し得ないものであるから、被告藤倉に対し(一)の建物の前記所有権保存登記の抹消登記手続と(一)建物の明渡しおよび同被告が(一)建物の占有を初めた昭和三七年六月二三日からその明渡済に至るまで前示一ケ月金二五、〇〇〇円の割合による損害金の支払を求め、被告竹田に対し、(二)建物の前記所有権保存登記の抹消登記手続と(二)建物の明渡および同被告が(二)建物の占有を初めた昭和三七年七月一八日からその明渡済に至るまで前示一ケ月金二五、〇〇〇円の割合による損害金の支払を求める。
(予備的請求の原因)
仮りに(一)、(二)の建物が原告の所有でなく、したがつた主位的請求が理由がないとすれば、
一、(被告藤倉、同竹田に対し)
別紙物件目録記載(三)、(四)の各土地はいずれも原告の所有であるところ、被告藤倉は昭和三七年六月二三日から(三)の上に(一)の建物を所有し権原なく(三)の土地を占有し、原告に対し右土地の相当地代額たる一ケ月七二〇円の割合による損害を与え、被告竹田は昭和三七年七月一八日から(四)の地上に(二)の建物を所有して権原なく(四)の土地を占有し原告に対し右土地の相当地代額たる一ケ月七二〇円の割合による損害を与えている。
よつて、原告は被告藤倉に対し、(三)土地の所有権に基づき(一)建物の収去と同土地の明渡および同被告が(三)土地の占有を始めた昭和三七年六月二三日から土地明渡済に至るまで一ケ月七二〇円の割合による不法占有に基づく損害金の支払を求め、被告竹田に対し(四)土地の所有権に基づき(二)建物収去と同土地の明渡および同被告が土地の占有を始めた昭和三七年七月一八日から土地明渡済に至るまで一ケ月七二〇円の割合による不法占有に基づく損害金の支払を求める。
三、(被告李に対し)
前記(主位的請求の原因三記載)建築資金一、〇六五、五〇〇円の融資契約においては原告が右建築費借金を弁済すれば、被告李は右各建物の所有権を原告に移転する約束であつた。
しかるに被告李は原告が前記(主位的請求の原因三記載)のとおり建築費借金債務の弁済として一一〇万円を現実に提供したに拘らず、右の義務を履行しないで昭和三七年六月二三日(一)建物を被告藤倉に、同年七月一八日(二)の建物を被告竹田に各売り渡し同被告らの名義に各その所有権保存登記をしたので、原告が右各建物を取得することは不可能となつた。
これは被告李の責に帰すべき事由により履行不能となつたもので、原告は右履行不能により、当時の時価である建物一棟当り二〇〇万円二棟分の合計四〇〇円相当の損害を受けたから、その内原告が被告李に支払うべき前記借金一、〇六五、五〇〇円を差し引いた二、九三四、五〇〇円の賠償を被告李に求める。
被告ら訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。
(主位的請求の原因に対する答弁)
一、主位的請求の原因事実のうち、被告らが原告主張の(一)、(二)の各建物の原告の所有権を争つている事実、(一)、(二)の各建物について原告主張のとおり被告藤倉、同竹田の名義に各所有権保存登記がなされ、原告主張の時から各同被告らが右各建物を占有していること、右各建物が分譲住宅として建築されたものであることはいずれもこれを認めるが、その余の事実は否認する。
二、なお詳説すれば前記(一)、(二)の各建物はいずれも次に述べる事情により被告李が建築してその所有権を取得し、被告藤倉、同竹田に前記各所有権保存登記の時に各売り渡したものであり、現に同被告らの所有である。右各建物を被告李が建築し、被告藤倉、同竹田に売り渡すに至つた事情は次のとおりである。
(一) 被告李は有限会社中央無線電機商会の名称で電気製品の販売を営んでいた訴外盧威緒(原告の内縁の夫)に対し、昭和三六年三月初頃テレビ等の電気製品六一三点(時価二、四二〇、七〇五円相当)を、同人が時価の六〇%相当の代金を被告李に支払う約束で委託販売をさせることとし、同年三月一六日全商品を同人に引き渡した。
しかるに同人は右受託商品を他に販売したに拘らず、被告李から約定の代金の支払請求を受けてもこれを支払わず、その他被告李は同人に対し昭和三六年六月八日金一五万円(弁済期同年九月八日、利息月九歩の定め)、同年八月一〇日金七万円(弁済期同年九月一〇日、利息月九歩の定め)をそれぞれ貸与したが同人はその支払をしなかつた。
(二) そこで被告李から盧に対し屡々右債務の支払を催促した結果昭和三七年二月二四日その支払方法について被告李と原告との間に次の趣旨の合意が成立した。
(1) 原告は盧の前記各債務を引き受けて支払うこととし、被告李において原告主張の(三)、(四)の土地を含む原告の所有宅地三七一坪四合六勺の土地を一八坪ずつに区分し、その地上に建坪一〇坪、二階七、五坪の分譲店舗兼住宅を自己の資金で、自己又はその指定人の所有名義で建築し、建築完成後その敷地の賃借権を附して他に売却し、その売却代金から建築費に月五分の割合による利息相当の金員を附加した金額を差し引いた残額により盧の債務を弁済する。
(2) 建物の売買代金額は原告と被告李との協議で定める。
(3) しかして原告は同日右契約の目的を達するため被告李に対し、右宅地三七一坪四合五勺を、普通建物の所有を目的とし、賃料一ケ月坪当り二〇円として期間の定めなく賃貸した。
(三) 被告李は原告との右契約により前記(一)、(二)の各建物を建築費一二六万円(一〇六万円は被告李が立替え支出し二〇万円は原告が支払つた)で昭和三七年六月一日頃建築完成させ、これに先だち同年三月二日前記賃借権設定契約について公正証書を作成した。
(四) ところが被告李が前記(一)、(二)の各建物を完成させるや、原告は約旨に反して、前記債務の清算をしないのに(二)の建物について被告李に秘して他に売買契約をし、その売得金を自己のために消費するに至つた。そこで被告李は原告が約旨に反して不法に原告の建築資金の回収および債権の弁済を受ける権利を害する不信行為をした以上は自己の権利を確保するため、前記約旨に拘らず、自己の一存で売買代金の額を決定して建物を売却することが信義上許されるから、昭和三七年六月二三日(一)の建物を被告藤倉に代金二一〇万円で、同年七月一八日(二)の建物を被告竹田に代金一九五万円でいずれも原告と被告李との間で予め協定された最低の売買価額以上の価額で売買代金を決定して売り渡し、被告藤倉、同竹田は各右建物を買い受けてその所有権を取得し、原告主張の各所有権保存登記を了したものである。
(予備的請求の原因に対する答弁)
一、予備的請求の原因事実のうち原告主張の(三)、(四)の土地がいずれも原告の所有であることおよび被告藤倉、同竹田が原告主張のとおり右各土地を占有していることは争わないがその余の事実は否認する。
二、なお原告は被告李に債務不履行の責があると主張するが、被告李が(一)、(二)の各建物を建築し、これを被告藤倉、同竹田に各売り渡したのは前記主位的請求の原因に対する答弁二記載の理由の外次の理由に基づくものであるから、被告李には債務不履行の責はない。
即ち右各建物は被告李の前述の貸付金、委託販売代金および建物建築費立替金等の弁済のため他に処分することを目的として建てられたもので、被告李の右債権が存在する限りは同被告がこれを他に売却処分することができるものである。ところで、被告李は盧に対し、
(一) 前述の貸金一五万円とこれに対する貸付日の昭和三六年六月八日から支払済に至るまでの一ケ月九分の割合による利息、遅延損害金債権
(二) 前述の貸金七万円とこれに対する貸付日の昭和三七年八月一〇日から支払済に至るまでの一ケ月九分の割合による利息、遅延損害金債権
(三) 前記委託販売契約の解除に基づく二、四二〇、七〇五円の損害金債権、即ち、前記契約においては時価合計金二、四二〇、七〇五円の六〇%の金額を盧から被告李に支払う約束であつたが、盧は前記受託にかかる商品を売却しながら約定の代金を支払わないので、被告李が数度の催告のうえ、昭和三六年九月初頃盧に対し委託販売契約を解除し、同被告は前記商品の時価相当の損害金債権を取得した。
仮りに右解除が認められないとすれば前掲時価の六〇%に当る約定の代金額である一、四五二、四二三円の委託販売代金債権がある。
(四) 前示(一)、(二)各建物の建築費として次のとおり支出した一六〇万円の債権(合計一、二六五、三三〇円のうち盧が負担して支払つた二〇万円を除いた金額の内金)
七万円 昭和三七年三月三日支出
三五万円 同 年 同月五日支出
二〇万円 同 年 同月二〇日支出
五一万円 同 年 同月二三日支出
一三万円 同 年 四月一〇日支出
五、三三〇円同 年 同月一八日支出
(五) 右建築費一〇六万円に対する出捐の日から弁償ずみに至るまでの一ケ月五分の割合による利息債権
(六) 前記(一)、(二)の建物の売却に要した手数料合計三五万円、この手数料は盧の負担に帰するもので被告李に弁償すべきものである。
(七) その他昭和三七年七月四日一〇万円を盧に時貸した賃金債権
以上の各債権を有するのであるから、被告李がこれらの債権の弁済を受けるため前示(一)、(二)の建物を売却したことは原告主張のような債務不履行とはならない。
被告ら訴訟代理人は予備的請求の原因に対する抗弁として次のとおり陳述した。
一、被告李は前記主位的請求の原因に対する答弁二記載のとおり(三)、(四)の土地を含む原告所有の宅地三七一坪四合六勺について昭和三七年二月頃原告と前記内容の賃借権を設定し、この賃借権について公正証書を作成した。
二、しかして被告藤倉、同竹田は前記(一)、(二)の各建物をそれぞれ被告李から買い受けてその所有権を取得するに当り、原告の承諾を得て右各建物の敷地である(三)、(四)の各土地に存する前記賃借権を被告李から譲り受け、各その賃借権を取得した。仮りに(一)、(二)の建物買受の時に賃借権の譲渡について原告の承諾がなかつたとしても、(一)、(二)の建物が分譲住宅として建築されるに至つた前記事情からして右各建物の敷地の賃借権については建物の売却と同時に他に譲渡することについて予め原告の承諾があつたものである。
三、仮りに然らずとするも被告藤倉、同竹田はそれぞれ(一)、(二)の建物を被告李から買い受けた頃、原告と同被告らとの間で各その所有となつた建物の敷地に当る(三)、(四)の土地についてそれぞれ普通建物の所有を目的とし、賃料一ケ月坪当り三〇円、期間の定めない賃借権設定を約し、同被告らは各その賃借権を取得した。
四、したがつて被告藤倉、同竹田はそれぞれ前記土地賃借権に基づき(一)、(二)の各建物を各その敷地上に所有することができるものである。
原告訴訟代理人は被告らの主張に対し、「訴外盧が被告ら主張の名称で電気製品の販売業を経営していたこと、盧と原告の身分関係、盧と被告李との間に被告ら主張の約旨で電気器具委託販売契約(但し金額と数量の点を除く。)が成立しその商品の引渡しがされたこと、被告ら主張の日に七万円と一五万円の各金員貸借(但利率の点を除く)が成立したこと、被告ら主張の公正証書が作成され、被告ら主張の土地について、原告と被告李との間にその主張の内容の賃貸借契約が結ばれたことおよび被告李が(三)、(四)の土地賃借権を被告ら主張のときに被告藤倉、同竹田に各譲渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。右委託販売契約により盧が受領した商品は五八〇余点で時価の六〇%に相当する金額は八五万円であり、右各貸金の利率は一ケ月八分の割合である。しかして原告主張の委託販売代金債務および各貸金債務については前記(一)、(二)の建物の売却代金によつて弁済することの約束はないのであるから被告李がこれらの債権を有しているからといつて前示(一)、(二)の建物の所有権を原告に移転しないで他に売却したことが債務不履行となるのを否定できない。」と陳述し、抗弁として次のとおり陳述した。
(一) 右各債権の譲渡は原告の承諾なく行なわれたものであるから、本件訴状の送達により被告李に対し賃貸借契約を解除する。本件訴状は昭和三七年九月七日同被告に送達されたから、右賃貸借契約は同日解除され、原告ら主張の賃借権は消滅した。
(二) もし、委託販売代金債権および貸金債権が被告ら主張のように建物売却代金から弁済される約束であるとしても盧は前記委託販売契約に基づいて引渡を受けた商品の約三分の一を処分した昭和三六年五月一九日自己の店頭にあつた残商品が浦和地方裁判所昭和三六年(ヨ)第四八号仮差押命令により仮差押を受けたのでその善後策について被告李と協議した結果同年九月頃、先に被告李および訴外巴山において盧の店頭から持ち帰つた一部受託商品の価額を一五万円と見積り、契約当初の時価の六〇%の金額である八五万円から右返品による一五万円を差し引いた七〇万円で返品分を除く全受託商品を盧が買い取ることに合意したから、原告主張の委託販売代金債権は消滅し、七〇万円の売買代金債権となつた。
(三) 盧は被告李に対し、被告ら主張の一五万円および七万円の貸金債務について次のとおり弁済した。
(1) 昭和三六年六月一三日 一二五、〇〇〇円
(2) 同年同月二二日 三、五〇〇円
(3) 同年七月三日、一四日、二六日 各三、五〇〇円
(4) 同年八月一日 一五、〇〇〇円
(5) 同年同月三日 二、〇〇〇円
(6) 同年同月一二日、二二日、同年九月五日、 各三、五〇〇円
(7) 同年一〇月二八日 九、五〇〇円
(8) 同年一一月一日 一、五〇〇円
(9) 同年一二月一一日 一三万円
合 計 一九五、〇〇〇円
したがつて原告が前記弁済の提供をした当時の債権額は被告ら主張の金額ではなかつた。
被告ら訴訟代理人は原告の右主張はいずれも争うと述べた。立証≪省略≫
理由
(主位的請求について)
一、建物の所有権の確認請求について
(一) 先ず、原告の所有権確認請求のうち被告李との関係で原告の所有権を確定する利益の有無について考察すると、前示各建物の現在の所有権保存登記名義人と現在の占有者が(一)の建物については被告藤倉、(二)の建物については被告竹田であることは当事者間に争いがなく、被告李は現在右各建物について自己の所有権を主張するとか或は建物を占有する等原告の所有権を直接に侵害する如き行為をしていないことは口頭弁論の全趣旨に照して明らかであるからこのような場合には、現在の所有名義人であり且つ自己の所有権を主張して占有している被告藤倉、同竹田との関係でのみ原告の所有権の確認を求めれば足り、被告李に対する関係では原告の所有権を確定する利益はないとの見方もあり得よう。しかし、被告李は右(一)、(二)の建物は自己が建築して所有権を取得し、これを被告藤倉、同竹田に売り渡して、現に同被告らの各所有に属すると主張し、原告の所有権を争つていることは当事者間に争いがないところであるから、被告李が右物件が原告の所有でないとの自己の主張を前提として原告の所有権を侵害する行為をする危険は現在するものというべきである(原告と被告藤倉、同竹田との間で原告の所有権が確定され、同被告らの前示各所有権取得登記が抹消されたときにはいよいよその危険が増大するであろうことは本件係争の全趣旨に照して明瞭であり、このことからしても原告の所有権に対する危険が現在しているものということができる。)。したがつて被告李との関係で右各建物の原告の所有権を確定する利益があると解すべきである。
(二) そこで右(一)、(二)の建物の原告の所有権の有無について判断すると(証拠―省略)および弁論の全趣旨を総合すると前記(一)、(二)の各建物が建築された経緯は次のとおりであることが認められる。
即ち、原告の内縁の夫訴外盧威緒は有限会社中央無線電機商会の名称で電気器具の販売を営んでおり(この点当事者間に争いがない。)被告李は訴外巴山守、安部修とともに三光商事の名称で金融業を営んでいたが、昭和三六年三月一二日被告李と盧威緒との間で被告李所有の被告ら主張の電気器具(各商品の時価合計金二、四二〇、七〇五円相当)額を盧威緒に販売させ、その販売代金のうち、右時価の六〇%に相当する金額を被告李に支払い、残余は盧の販売手数料収入とする旨の約旨で委託販売契約をし、被告李は右金額相当の電気器具全部を盧に引き渡した(金額の点を除きこの委託販売契約が成立し、商品の引渡があつたことは争いがない。)が、盧は右電気器具の僅少な一部を返品しただけでその殆んどを他に販売しながら約定の販売代金を被告李に支払わなかつた。また被告李は昭和三六年六月八日頃一五万円を弁済期同年七月八日として、同年八月二〇日七万円を弁済期を同年九月一〇日とし、利息を各月九分の割合と定めて盧に貸与した(利率の点を除きこの貸借が各なされたことは争いがない。)が、その弁済がなかつた。そこで被告李から盧に対し屡々右委託販売代金の支払と貸金の弁済を督促した結果、被告李と盧(同人は原告の代理人をも兼ねて)との間で盧の右各債務の支払方法につき、昭和三七年二月二四日、原告所有の埼玉県川口市芝字禰ノ輪一、二七三番の一、同一、二七四番の一、同一、二七五番の一の宅地(原告主張の(三)、(四)の宅地は同所一、二七五番の一の内である。)上に被告ら主張の規模の分譲住宅を建築してこれを敷地の賃借権を附して売却し、その売却代金のうちから先ず建築費用を優先的に回収し残余のうちから被告李に対する右委託販売代金および貸付金の債務を弁済してなお余剰金があれば原告がこれを取得し清算の結果建築費用が回収され、債務が完済されて売却する必要のなくなつた未売却の建物は被告李から原告に所有権を移転すること、原告および盧には建築資金がないので、被告李が資金を立替えて支払い、自己の名義で建築し、右建築費立替金については月五分の金利を附して原告(実際には盧)が弁償すること、建物の売買および代価の決定は原告と被告李との協議で取決めることとして数棟の分譲住宅の建設および債務弁済の契約が成立し、同時に前示各宅地について被告李のために木造建物の所有を目的とし、賃料一ケ月坪当り二〇円期間の定めのない賃貸借契約を結び、同年三月二日右賃貸借契約について被告ら主張の公正証書を作成した(右分譲住宅の建築計画と賃貸借契約およびその公正証書の作成の点については当事者間に争いがない。)。被告李は右契約に基づいて自己資金一〇六万円余を投下し、外に原告が出捐した二〇万円を加え総額一二六万円余で(三)の土地上に(一)の建物を、(四)の土地上に(二)の建物を昭和三七年四月中にいずれも自己の内縁の妻である清水照の名義で建築し完成させた。
前記(一)、(二)の建物を建築するに至つた経過は以上のとおりであつてこの認定に反する証拠はない。
右認定の事実から判断すれば、右契約における当事者の意思は、建築建物は被告李に対する盧の前記各債務および同被告が立替え支出した建築費用(立替の日から月五分の利息を含む)の弁済確保のため、建築すると同時に被告李が原始的にその所有権を取得するが、只原告または盧において右債務および立替金を別途完済して建物を他に売却する必要がなくなつたとか、数棟の建物のうち一部を売却し、その代金をもつて右各債務および立替金を完済したためそれ以上建物を売却する必要がなくなつた等の場合に未売却の建物があれば被告李は未売却の建物の所有権を原告に移転する義務を負う趣旨であると解するのが相当である。
証人(省略)の各証言のうち、右解釈と異なる見解があるが採用できない。
したがつて(一)、(二)の各建物は建築と同時に原始的に被告李の所有となつたものと認められるところ、(証拠―省略)によれば、被告藤倉は、昭和三七年六月二三日(一)の建物を代金二一〇万円で被告李から買い受けて同日自己名義に所有権保存登記をし、被告竹田は昭和三七年七月三日(二)の建物を代金一九五万円で被告李から買い受けて同年同月一七日自己名義に保存登記をした(右保存登記が各右日付でなされたことは当事者間に争いがない。)ことが認められるから、右各建物は現に被告藤倉、同竹田の各所有に属するものというべきである。
(三) 以上説明したとおりであるから、(一)、(二)の各建物は原告の所有でないことが明らかであり、原告の所有権の確認を求める請求は理由がない。
二、その余の主位的請求について
所有権確認の請求を除くその余の主位的請求はいずれも(一)、(二)の建物が原告の所有であることを前提とするものであるからすでに説明したところから明らかなとおりその前提において失当であり棄却を免れない。
(予備的請求について)
一、被告藤倉、同竹田に対する請求について
(一) 原告主張の(三)、(四)の土地が原告の所有であり、原告と被告李との間で、右各土地を含む原告所有の宅地に昭和三七年二月二四日木造建物の所有を目的とし、賃料一ケ月坪当り二〇円、期間の定めのない賃貸借契約を結び同被告がその賃借権を取得したこと、被告李は右賃借権を(一)、(二)の建物を被告藤倉、同竹田にそれぞれ売り渡した際同時に右各建物の敷地である(三)、(四)の土地賃借権をそれぞれ同被告らに譲渡したこと、被告藤倉は(三)の土地をその地上に(一)の建物を所有することにより、被告竹田は(四)の土地をその地上に(二)の建物を所有することによりそれぞれ建物取得のときから占有していることはいずれも当事者間に争いがない。
(二) そこで右賃借権の譲渡について賃貸人である原告の承諾があつたかどうかについて検討すると、藤倉助次郎という記載を除くその余の部分の成立に争いがなく、右記載部分は当初空欄であつて後に被告李において記入したものであることが同被告李本人尋問の結果によつて明らかな乙第八号証の二、竹田晋吾という記載を除くその余の部分の成立に争いがなく、右記載部分が当初空欄であつて後に被告李において記入したものであることが同被告本人尋問の結果によつて明らかな乙第八号証の一と被告李本人尋問の結果によれば盧は前記(一)、(二)の建物について建築基準法所定の行政庁の確認がなされた後被告李の要求に応じて各右建物の敷地である(三)、(四)の土地につき、原告を代理して土地使用の承諾をしたが、その証として将来右各建物が誰に売却されるか分からないところから土地使用者の氏名をいずれも空欄にして(一)の建物の敷地である(三)の土地については乙第八号証の二、(二)の建物の敷地である(四)の土地については乙第八号証一の書面を作成して被告李に交付したことを認めることができ、(証拠―省略)のうちこの認定に反する部分は右各証拠に照して信用できない。右認定の事実に(一)、(二)の建物が分譲住宅として他に売却される性質のものとして建築され、これらの建物のために(三)、(四)の土地について被告李のために賃借権が設定されるに至つた前述の経緯を総合して考察すれば、原告は被告李に対し、同被告が将来建物を買い受ける者に対し、その敷地の賃借権を譲渡することを予め承諾したものと推断することができる。
(三) 原告は右賃借権の譲渡は原告の承諾なくなされたものであるから本件訴状の送達により賃貸借契約を解除したと主張するけれども右説示のとおり、賃借権の譲渡につき原告の承諾があつたのであるから原告の主張は理由がない。
(四) 以上の次第であるから、被告藤倉、同竹田はそれぞれ右賃借権に基づき(三)、(四)の土地の占有を原告に対抗することができるわけであり、その占有が権原に基づかないことを前提とする原告の請求はいずれも理由がない。
二、被告李に対する請求について
(一) 原告主張の債務不履行の成否について考察するに、(証拠―省略)によれば、盧威緒は、被告李と被告藤倉との間に前記(一)の建物の売買契約が略成立しかけていた昭和三七年五月二六日頃、現金一一〇万円を被告李のもとに持参し、右(一)の建物の売却代金と盧の持参した右現金とを合算すれば、被告李の建築費立替金と委託販売代金債権は皆済となると主張して前記現金の受領を被告李に促したが、同被告は先に盧が(二)の建物について訴外鈴木某と売買契約をしてその手附金を受領しながらその事実を秘匿していたとして盧に反感をもち、また債務額に対する双方の見解の相異もあつて、盧の提供した前記弁済の受領を拒絶したため、盧は右現金を持ち帰つたことが認められ、この認定に反する証拠はない。しかしてその後被告李が前記(一)、(二)の各建物をそれぞれ被告藤倉、同竹田に売り渡し、同被告らが各その所有権保存登記を経たことは前述のとおりである。
(二) しかし被告李は前述のとおり、自己の前記委託販売代金債権および建築費立替債権(一ケ月五分の割合による利息を含む。)が完済された後においてのみ未売却の建物の所有権を原告に移転すべき義務を負い、右債務が残存する限りその義務はないものである。
(三) そこで被告李の右各債権の額についてみると、前述の貸金二二万円、委託販売代金一四五万円(被告李は委託販売契約を解除して商品の時価相当の二、四二〇、七〇五円の損害賠償債権を取得したと主張し、被告李本人尋問の結果にはこれにそう供述があるがたやすく信用できないし他には右主張を認めるに足りる証拠はない。したがつて前示委託販売契約に基づく時価の六〇%相当の金額が委託販売代金債権の額であると認める外はない。しかし、右委託販売契約により被告李から盧に引き渡した商品の時価合計金は二、四二〇、七〇五円であることは先に認定したとおりであるが、証人(省略)の証言によれば右商品のうち金額の僅少な一部のものが返品されたのみで他は殆んどが販売ずみであることが認められこの認定に反する証拠はないのであるから販売ずみの商品の時価合計金は略右金額に近く、その六〇%に当る金額は一四五万円を下らないものと推定し得る。原告は時価の六〇%相当の金額が八五万円であると主張し、証人(省略)の各証言にはこれにそう部分があるけれども乙第一号証の三と対比して信用できない。なお原告は委託販売の商品を盧において代金七〇万円で買い受けたから委託販売代金債権は消滅し、右同額の売買代金債権となつたと主張するけれどもこれを認めるに足る証拠はない。)建築費立替債権一〇六万円(実際の支出金額は一〇六万円余であるが被告李はこれを一〇六万円と主張するからその主張に従う。)その外に貸金に対する利息、損害金、建築費立替金に対する利息があり、元金のみを考慮する場合でも合計二、七三五、〇〇〇円を下らないことはすでに説示したところから明らかである。しかして訴外盧が前記一一〇万円を被告李に弁済のため提供したものの、その受領を拒絶されるやこれを持ち帰つたことは前述のとおりであり、なお原告は右のうち貸金については盧が一三回に亘り合計一九五、〇〇〇円を弁済したと主張するけれども証人盧威緒の証言によつては右主張を肯認するに足りないし、他には何の立証もなく、その他右各債権について弁済がなされたことの立張立証のない本件においては、被告李は(一)の建物の売却当時元金債権だけでも少くとも二、七三五、〇〇〇円の債権を有していたものであるから、被告李は(一)の建物の所有権を原告に移転する義務はなく、したがつてこれを被告藤倉に売り渡しても原告主張の債務不履行には当らないというべきである。
次に被告李が(二)の建物を被告竹田に売り渡した点について考察を進めると、被告李は前記(一)の建物を被告藤倉に代金二一〇万円で売却したことは前述のとおりであり、この代金は前記各債務の内入れとして被告李が取得したことは弁論の全趣旨によつて明らかであるからこの金額を同被告に不利益に全部元金に充当したものとして計算した場合でもなお少くとも約六三五、〇〇〇円の債権が残存するから、被告李が(二)の建物を被告竹田に売り渡してもやはり原告主張の債務不履行には当らない。
(四) したがつて原告主張の債務不履行はこれを認めることができないのであるから、原告が右各建物の売却代金について清算余剰金の支払を被告李に求めるのは格別、債務不履行に基づく損害賠償を求める権利はないものというべきであり、原告の請求は理由がない。
(結論)
以上説明したとおりであつて、原告の請求は、主位的請求も予備的請求もすべて理由がないからこれを棄却し、訴訟費用負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。
浦和地方裁判所第二民事部
裁判官 伊 藤 豊 治
物件目録
(一) 川口市大字芝字綱の輪一、二七五番地の一所在
家屋番号同字一、二七五番の一の一一、木造スレート葺二階建店舗兼居宅
床面積一階一〇坪、二階七、五坪
(二) 同所所在
家屋番号同字一、二七五番の一の二一、木造スレート葺二階建店舗兼居宅床面積一階一〇坪、二階七、五坪
(三) 川口市大字芝字綱ノ輪一、二七五番の一
一、宅地一六二坪二合一勺のうち
東南隅の幅(南および北側)三間奥行(東および西側)六間の矩形土地一八坪の部分
(四) 同所同番
一、宅地一六二坪二合一勺のうち
右(三)土地の西側に隣接する幅(南および北側)三間、奥行(東および西側)六間の矩形の土地一八坪の部分